ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ヴェニス・ビーチ(後編)

 俺とウェルカミングワンドは気ままに自転車を漕いだ。このサイクリングロードをずーっと辿っていけば、最終的にはサンタモニカ・ピアに到達する。
 俺たちは陸側に建ち並ぶ土産屋を、一軒一軒チェックし、気になる店には立ち寄った。帽子やサングラスを選んだり、タトゥーを入れたり、マリファナを買ったりした──こう書けばちょっと引かれるかも知れないので、少し解説しておく。タトゥーは本格的な彫り物ではなく、「ヘナ・タトゥー」という植物由来の染料でプリントするもの。1週間ほどで消える。また、マリファナはいわゆる医療用大麻で、カリフォルニア州では合法。本当は処方箋が必要だけど、ウェルカミングワンドがどうにかしてくれた。察してほしい。
 そして、マスク屋があった。レトロプロダクトの友達がかぶっていた、情けない表情の豚マスクが陳列してある。ヤツはあのマスクをこの店で買ったのだ。
 興味のなさそうなウェルカミングワンドを少し待たせて、俺は自分に合ったマスクを物色した。キツネ・サル・アライグマ・フクロウ。ガイコツ・悪魔・ホッケーマスク……。俺は灰色の猫を選んだ。お面のようなチャチな造りではなく、顔全体をすっぽりと覆う、しっかりとしたマスクだった。俺はすっかり猫人間と化した。ウェルカミングワンドは爆笑して、俺の全身を写真に収めた。
 陽が高くなってきた。空気が太陽の子どもたちで満たされる。この辺りは1年のうち340日が晴れだともいう。俺たちは再び自転車にまたがり、水中を歩くようにペダルを踏んだ。
 サーフボードショップ、カフェ、レストラン。海の家相応の小ぶりな店を横目に見ながら進む。と、前方に石造りの囲いが見えて来た。囲いの中には筋骨たくましいマッチョたちがウヨウヨ。砂浜にしつらえられたその施設は、通称「マッスル・ビーチ」と呼ばれる屋外ジム。鉄棒・ベンチプレスマシン・バーベル・エアロバイクなどが青空の下に設置されており、筋肉自慢がこれ見よがしに筋トレをしている。周りから丸見え。己の肉体にかなり自信がないと恥ずかしくてやってられない。逆に言えば、ナルシスト的な自信があるからこそ、他人に見せびらかしたいのだろう。確かにどいつもこいつも漫画みたいなシックスパックだ。
 何となく腹が立った俺たちは、囲いを乗り越え、マッチョたちに素手で殴りかかった。どうせ見せかけだけの筋肉だろう。俺たちの方が強いに決まっている。
 と思ったら、きゃつら、思いのほかケンカも強かった。無礼極まりない乱入をしてきた道場破りに対し、マッチョたちは一致団結して立ち向かった。俺は四方八方からパンチを浴び、意識が飛びそうになった。やばい。このままでは殺される。
 業を煮やしたウェルカミングワンドが、ショットガンを取り出してぶっ放した。俺の至近距離でパンチを繰り出していた黒人が後方に吹っ飛んだ。阿鼻叫喚。マッチョでも逃げ惑うんだなあ。どれだけ筋肉で武装しても、生身の人間は銃には勝てないということだな。パニックになったヴェニス・ビーチ。さして気にすることもなく、自転車にまたがり、散策を再開する。
 その先にはスケートパークがあった。本来はスケートボードのためのバンクであるが、BMXをレンタルしてきたウェルカミングワンドは、一目散に飛び込んでいった。子どもがプールを見つけてはしゃぐ姿と変わりなかった。俺のレーサータイプの自転車ではちょっと無理そうだ。平坦な道には強いが、ここまで傾斜のついた曲面では楽しめそうにない。BMXが跳ね回ったりレールスライドする様子をただ見守っていた。
 しばらく眺めていたが、退屈そうだと思われたのだろうか。ウェルカミングワンドは戻ってきて、BMXを貸してくれた。そして、どこかに走り去って行った。
 いつも悪いなあ。そう思いながら、俺は無邪気にスケートパークの中を走り回った。
 数分後、ウェルカミングワンドが戻って来た。どこで調達したのか、最初のとは別のライフガード用バギーで、バンクの中に飛び込んで来た。
 俺たちは正午近くまでスケートパークで危険なじゃれ合いを繰り広げた。