ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

サンタモニカ・ピア/観覧車

 ジェットコースター。意外にもなかなか飽きない。童心に帰った俺たちは、階段を駆け上がり、踊り場に引っかかった邪魔なバイクを乗り越え、乗り場に走った。
 ジェットコースターはまだ走行中で、乗り場に到着していなかった。何を思ったのか、ウェルカミングワンドはレールに下り、ジェットコースターを待ち構えた。ジェットコースターは減速しながらプラットフォームに入って来る。止めてみせる気なのだろうか。
 無謀な男気もむなしく、哀れウェルカミングワンドはあっけなく車体に轢かれた。レールと車体の間、車輪と車輪の間、どうしても引っこ抜けないスペースにはまり込んで下敷きになり、びくびく痙攣を始めた。俺はどうして良いかわからずただただ慌てふためいた。珍しい光景なのでとりあえず記念撮影をしておいた。
 異物が挟まったからだろうか、自動運転のジェットコースターはその後まったく発進しなくなった。ウェルカミングワンドはなかなか絶命せず、かと言って救い出す手立てもなかった。彼はいつ終わるとも知れぬ地獄の苦しみにもがいていた。
 しまいには、「殺して」と言われた。
 俺はためらった。人殺しはしない主義だし、しかもそれが義兄弟を標的にしてのことならなおさらだった。
 しかし、どうしようもない。このまま手をこまねいていても、彼の苦しみは増すばかりだ。
 俺はピストルを構え、彼の顔に照準を合わせた。彼はもがき苦しみながらも、コクリとうなずいたように見えた。俺は目をギュッとつぶって、引き金を引いた。
 乾いた銃声がした。真っ赤な液体によって彼のミラーサングラスは光沢を失った。
 嫌な気持ちが胸の中にぱぁっと広がって黒く凝固した。かつてこの桟橋の真下で、十把一絡げのストリートギャングどもを皆殺しにした時には、決して味わうことのなかった罪悪感。生きた人間を殺めてしまった感触。手が震えた。人ひとり殺すということがどういうことなのか、初めて実感できた。
 ウェルカミングワンドの遺体は消えた。俺は申し訳ない気分で黙祷をした。
 何事もなかったかのようにウェルカミングワンドは乗り場に戻って来た。そういう結果になるとわかっていながら、俺の嫌な気持ちは消えなかった。怒ってないかな。俺の気持ちを察したのか、ウェルカミングワンドは敬礼をした。それでも居たたまれなかった俺は、自分のこめかみに銃口を押し当て、引き金を引いた。薄れ行く意識の片隅で、ウェルカミングワンドが右手で顔を覆って嘆く姿が見えた。
 意識を取り戻すと、ウェルカミングワンドは駆け寄ってきて、俺がしたように、拳銃自殺した。気にしてないという意思表示なのだろう。いい人だ。お互い英語が不器用で、言葉によるコミュニケーションは苦手だが、心の底で通じ合えた気がした。
 その後、男二人で乗るのもどうかと思ったが、観覧車に乗ることにした。この観覧車は車輪の外郭でものすごいネオンを振り回しており、電光がまばゆく周囲のアミューズメント施設──ゲームセンター・お土産屋さん・水族館を照らしている。ちなみに世界唯一の太陽光発電観覧車だそうな。
 ゴンドラは徐々に高度を上げていく。無人のジェットコースターが時折そばを通る。長大なサンタモニカ・ビーチが視界に伸びていく。東の空がオレンジ色に変じ、太陽がのっと姿を現す。こんな最高のシチュエーションでご来光を拝めるとは。本当に幸せだ。俺はウェルカミングワンドに「富士山から眺めた日の出に匹敵する」と話した。ウェルカミングワンドは小首を傾げて笑っていた。どうやら富士山を知らないらしい。
 世界は見る見るうちに明るくなっていく。夜明け。ゴンドラが地上部分に戻って来る頃には、ロサンゼルスはすっかり朝を迎えていた。
 観覧車を下りると、ウェルカミングワンドは陸を背にして桟橋を走り始めた。桟橋は海上を100メートル以上伸びていて、突き当りのデッキには2階建てのレストランとハーバーオフィスが建っている。
 俺たちはデッキの突端まで来た。釣り竿が何本も固定されている。太平洋の雄大な眺め。朝まだきの時間だからか、地元のサーファーでさえ波と戯れていない。ビーチに花開くパラソルの数もまばらだ。ヨットやボートが波間に揺れているのは見える。
 ウェルカミングワンドは突然、桟橋を乗り越えて眼下の海に飛び込んだ。この男、それほど暴力的ではないが、本当にクレイジーだな。少し躊躇してから俺も後に続いた。
 水柱。弾力。世界が青くなる。都会に近いわりには、非常にきれいな海だ。水中で、ウェルカミングワンドのワインレッドの背中がチラリと見えた。彼は海上に上がっていき、一隻のモーターボートに接近した。何をするのだろう、だいたい予測はつくが。
 案の定、彼はボートによじ登り、持ち主を海へ叩き落とした。慣れた手つきで操縦し、俺の元にやってきて乗せてくれた。