ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

サンタモニカ・ピア/ジェットコースター

 気が付くと、知らない病院の前に立っていた。大脳が蜂にたかられたように痛む。酔いつぶれて気を失っていたようだ。GPSマップを確認すると、現在地はミッドウィルシャー。ウェストハリウッドのシエラ・タワーからずいぶん離れた場所に搬送されてしまった。シエラ・タワーの辺りを検索すると、パワーヒッターを筆頭におびただしい数のクソッタレがマンションに凝集している。きっとパーティーを続けているのだろう。俺もいつか、あんな高級マンションに住める日が来るのだろうか。
 シエラ・タワーに戻る労を厭って、病院前でタバコを吸いながらスマホをいじった。不動産のサイトを閲覧し、シエラ・タワーの購入金額を知る。意味不明な笑みがこぼれた。無理だ。
 その後、フェイスブックツイッターに夢中になっていると、コミカルなクラクションが目の前で鳴った。驚いて顔を上げると、ワインレッドの革ジャン、ミラーサングラスにオールバックの男が、バイクにまたがってこちらを見ていた。ウェルカミングワンドだ。
 俺は再会の嬉しさに歓声をあげながら、後部座席にまたがった。バイクはすぐさま猛発進し、サンタモニカ大通りを西進する。
 辺りはまだ暗い。カクテルビームが断続的に俺たちを舐める。アルコールの抜け切らない頭には、路面のきらめきが真っ昼間の太陽のようにまぶしかった。
 やがて次第に潮風の匂いが強くなる。突き当りを左折すると、海の上にまばゆく回転するネオンが見えて来た。サンタモニカ・ピアの上にある遊園地、パシフィック・パークの観覧車だ。
 バイクは速度を落とさず桟橋を進む。観光客を何人か撥ね飛ばし、ジェットコースターの下まで来ると、そのまま乗り場への狭い階段をのぼり出した。ちょっとそれはさすがに無理だろう、いかにウェルカミングワンドがバイクの達人だと言っても。案の定、踊り場で曲がり切れず引っ掛かり、乗り捨てるはめになった。
 ビビりまくる係員を尻目に、俺たちはジェットコースターに搭乗した。乗客は俺たち2人しかいない。発車のベルが鳴り渡り、車体はゆっくりと動き出した。ガタン、ゴトンとレールを鳴らしながら、傾斜のきつい坂をゆるゆる上っていく。ウェルカミングワンドはもう諸手を上げている。いや、まだ早いだろ。
 ライトアップされた坂を車体はあえぐようにして上り続け、頂上付近に至り、力尽きたかのような速度になった。夜の頂が黒くなった。と次の瞬間、ものすごいスピードで滑降を始めた。──ものすごいスピード。さっきまで乗っていたバイクの、3分の1ほどのスピードだったが。
 ジェットコースターはアップダウンを激しく繰り返し、速度を落とさず急カーブを曲がった。俺も恐る恐る安全バーから手を放し、横Gに身を預けた。俺たちはバンザイ状態でキャアキャアはしゃいだ。ネオンをぶん回す観覧車が右方向に映じた。
 きいいいい、ブレーキ音が軋み、乗り場に到着した。安全バーがあがり、クタクタになった炭鉱夫のように車体を降りた。楽しかったねえ。俺はニコニコしながらウェルカミングワンドを見た。するとやっこさん、係員に銃を向け、追っ払った。俺に対しては優しいから忘れていたけど、彼は根っからのロサンゼルス住民だった。クレイジーなクソッタレだった。
 彼はコントロールパネルを操作し、一定間隔で自動的に発車する設定にした。そうして、車体の前部に「直立」した。馬鹿じゃなかろうか。これくらいしないと、満足できるスリルを味わえないほど、危険に鈍感になっているのだろう。仕方なく、俺もまねをした。もっとも、俺は彼ほどの馬鹿をする勇気がなく、座席に立ったが。
 自動運転により、発車ベルが鳴り響き、車体は動き始めた。急な傾斜に耐え切れず、ウェルカミングワンドはすぐにぶっ倒れた。張り付いたスルメみたく車体にでろりと横たわり、起き上がれなくなった。身体の自由が利かないのでパニックに陥りわめいていた。助けてあげたいところだが、あいにく俺だって自分のことで精一杯だ。足がガクガク震えている。手を貸すこともできず、ただ大笑いをした。
 車体は無慈悲に坂を上り続け、一瞬停止しかけて、次の瞬間には最高速度に達した。こええええええええ!下ったあとはすぐ上りになる。俺は前後にバランスを取って必死に耐えた。仰向けにへばりついたウェルカミングワンドも、アップダウンは乗り切ったが、最初のカーブで投げ出された。「No~」という悲鳴が地上に降下していった。俺は涙が出るほど笑った。それで油断して、次のアップダウンで俺も振り落とされた。
 おのおの乗り場に戻ってくると、ジェットコースターはきちんと停車位置に収まっていた。間髪を入れず発車ベルが鳴ったので、急いで搭乗しようとしたが、車体は無慈悲に動き始め、俺たちは振り落とされた。無人の乗り物はロサンゼルスの闇夜に吸われていった。俺たちは笑い合った。そして、車体を追うようにレールを駆け上がった。なんとか追いつこうとしたが、ジェットコースターは猛スピードで駆けて行った。レールがガタゴト言う音が遠ざかっていく。
 坂の頂上に立ち止まり、絶景を見回した。観覧車のネオンは風車のように高速回転し、けばけばしいまでのサイケデリックな光をウェルカミングワンドのミラーサングラスに投じている。東の水平線からは紫色の空が滲み出して来ている。夜明けが近いのだろう。辺りは静かで、砂浜を丁寧に洗う波の音と、風の音と、足下の遊園地で遊ぶ楽しそうな声が聞こえてくるばかりだ。
 ああ、幸せだなあ。ぼくはほんとうにロサンゼルスに来てよかったなあ。俺たちはレールの頂上でスナックをむしゃむしゃやりながら、サンタモニカの夜景を飽くことなく見つめていた。
 と、そこへ、自動運転のジェットコースターが通りかかった。俺たちは地上へはたき落とされた。