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ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ストリップクラブ

 目的地に設定されていたのはストリップクラブだった。なるほど、最高だ。店の裏、手狭な駐車スペースにスーパーカーをはめ込む。ロサンゼルスでは前向き駐車がスタンダードであり、バック駐車はあまりしない。郷に入りては郷に従え。慣例通り俺も頭から突っ込んだ。わざとだが、ブレーキとアクセルを間違えて壁に激突した。エンジンルームから白煙が上がり始めた。
 スーパーカーのオーナーが助手席から降りた。彼は先行してストリップクラブのドアを押し開ける。俺も続く。腹にずしんと来る大音量のダンスミュージック。ブラックライトが照り返す中、ディスコチックなビームがフロアを照射している。ストリッパーがポールダンスをしている真っ最中で、客はステージ縁の手すりにかぶりついている。サルのマスクも手すりにもたれかかり、豪勢におひねりをばらまき始めた。札束が雨のように降り注いだ。その羽振りの良さに周囲の連中は感嘆していた。俺もマネをしてみたが、とてもじゃないがもったいない気がして、1ドル札を1枚投げ込むので精一杯だった。
 俺は手すりを離れ、景気づけにバーカウンターへ向かった。女バーテンはモデルのような美人で、カジュアルな露出度の高いヘソ出しルックに身を包み、大音量で流れるエイメリー「1シング」に合わせて横揺れしている。ショットグラスを注文し、一息にかっこんだ。アルコールが口腔、喉、胃を焼いてく過程が如実にわかった。ガソリンが入った感覚、急速チャージ完了。ていうかこのバーテンも脱いでくれねえかな。
 ショーが一段落すると、ストリッパーは足元に散らばった札束を掻き集め、ステージ奥のカーテンの中に引っ込んだ。
 フロアをうろつき回っていた別のストリッパーが、サルマスクをプライベートダンスに誘った。彼はブルネットのストリッパーに伴われてカーテンの奥に消えていった。サルのマスクをかぶったまま。
 俺も彼に倣おうと、フロア内を物色した。赤いランジェリーで申し訳程度に肌を覆った、金髪の女がいた。目と目が合った。彼女は40ドルでプライベートダンスを披露すると言う。俺は一も二もなく財布から札束を掴み出した。
 カーテンの奥に導かれ、ソファーが置かれただけの1坪ほどの個室に案内された。俺はどっしりと座り、両腕を背もたれに載せ、足を開いてソファーに沈み込んだ。するとお嬢はブラを取ってオッパイをあらわにした。白い柔肌に美しいピンク色の乳首が光っている。ビューティフル。お嬢はくねくねと踊り始めた。俺は矢も楯もたまらずお嬢の腰に手をやった。
 プライベートエリア内は男の従業員が巡回しており、時折こちらの様子を偵察してくる。お嬢の腰をホールドしているところを見られ、軽くたしなめられた。どうやらおさわり禁止らしい。仕方なく、俺はただただカタカナ英語で「ビューティフル」を繰り返した。
 それでも、こんないい女が目と鼻の先で艶めかしく顫動していれば、視覚だけでは物足りなくなる。俺の指先は自然とお嬢の体に伸びた。お嬢はうれしそうに笑い、色っぽい眼で「もっと」と訴えた。
 従業員の気配を察知した時だけ、お嬢の肉体から手を離した。従業員が通り過ぎるとすぐにまた、お嬢のしっとりとした肌を撫で回した。痛いくらいに勃起していた。
「オイ!次やったらつまみ出すからな!」
 心臓が止まるかと思った。あまりに夢中になっていたため、そっと近づく従業員の気配に気が付かなかった。2回目は強い口調で警告された。思わず日本語で「すみません」と謝った。
 俺は借りて来た犬のようにおとなしくなった。舌を出してせわしなくハッハと息をするだけだった。お嬢は踊りながら少しさみしそうな表情をした。口をすぼめ、眉をひそめている。唇がパクパク開閉した。「もっと」と言っているようだった。
 俺は我慢できず、三度お嬢の体に触手を伸ばした。お嬢は笑顔を弾けさせ、激しく体を揺すった。舌先が届きそうな距離でオッパイがプルプルとおいしそうに揺れた。暴発してしまいそうだった。この娘が好きになってしまった。俺はとろんとした目つきで「アイラヴユー」を繰り返した。
「てめえ、何度言ったらわかるんだ!おしまいだ!とっとと出て行け!」
 従業員の怒声にもしばらく気付かないほど、この空間にのめり込んでいた。俺は屈強な黒人2人に両脇を抱えられ、店の外に放り出された。OMG。出入り禁止を食らってしまった。ドアの両脇を固める黒服を射殺し、再度入店してやろうと思ったが、サルマスクがお楽しみ中だという事に思い到り、グッと我慢した。腕組をしてこちらを警戒する黒服を、睨み返してやることしか出来なかった。
 やがて、俺が締め出されたことに気付いたのか、サルマスクも店の外に出て来た。どう説明して良いのやら、俺はジェスチャーだけで今の感情を伝えた。右手で顔を覆ってから天を仰ぎ、黒服に中指を立てた。
 すると、サルのマスクをかぶったこのクソッタレは、重そうなミニガンを小脇に抱えた。「ミニガン」と言うと小さな銃に聞こえるが、実際にはヘリコプターに搭載するようなごっついガトリングガンであり、シュワルツェネッガーが映画で掃射しているようなバルカン砲である。
 まさかとは思ったがそれは本物のミニガンで、彼が引き金を引くと、電動モーターが駆動し、毎秒100発とも言われる発射速度で弾丸を吐き始めた。ミニガンを右から左へ薙ぎ払うように振ると、黒服は痛みを感じる暇もなく絶命し、ドアは煙を上げた。彼は一旦射撃をやめ、重たそうにミニガンを携行したまま、店の中に押し入って行った。嫌な予感しかしない。店内で乱射するつもりなのかも知れない。ハラハラしながら俺は後ろに付き従った。
 彼はノロノロとダンスフロアまで歩を進めると、案の定、ミニガンに火を吹かせた。目にも止まらぬ弾丸が隙間なく連なり、その軌跡はまるでレーザービームだった。銃器というより刀剣類のようであり、数珠つながりの弾丸によって現出した刃が店内の全方向に振り回された。ライトが割れ、天井からパラパラとホコリが降り、壁がボロボロに剥がれた。もちろん、従業員は皆殺しにされたし、何の罪もない客たちも肉塊を飛び散らかせた。きゃあきゃあ逃げ惑うストリッパーたちも巻き込まれた。俺のためなのかも知れないが何もそこまでしなくても。生物が死に絶えたフロアには、それでもソウルミュージックが流れている。
 凄惨な事件現場にドヤドヤと警察官が踏み込んで来た。
「動くな!」
 そう叫んだ警官は、叫ぶと同時に後方へ吹っ飛んで動かなくなった。ミニガンからの弾丸の照射を浴び、生命活動が事切れたのだ。みるみるうちに死体の山が築き上げられた。
 突入してくる警官の勢いが、奔流から滴へと減ずると、彼はミニガンを駆動させたまま、落ち着き払った歩調で出口に向かう。マスクの下の表情を窺い知ることは出来ないが、不機嫌そうに葉巻をくわえたサルの顔は、ほとんど無感情に見えた。
 ドアまで辿り着き、外を覗くと、店を取り囲むようにパトカーが何台も停まっていた。パトカーの陰には警察官が何名も待機していて、代わる代わるドア付近にショットガンをぶっ放した。彼は被弾するのに構わず店外に進み出て、ミニガンでパトカーを次々に爆発させた。
 辺りは束の間静かになった。
 彼は何事もなかったかのようにスーパーカーに乗った。この男、あまりに危険。あまりに暴力的。俺も虐殺されるのではと思い、躊躇していると、『ワルキューレの騎行』が鳴り響いた。クラクションによるファンファーレ。乗せてもらうしかない。