ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

スーパーカーを運転する

 俺はスクーターで街を散策した。BMXよりはスピードも出るし、余計な体力を使わなくて楽だ。より一層、ロサンゼルスの風景を楽しめむことができた。エリアによって街路樹が異なることに気が付いたり、気持ちの良い陽の光や風を感じることができた。スポーツカーを爆走させていたら気づくことはなかっただろう。目を細め、ゆったりとした時間を身体中で堪能した。
 エコーパークからシルバーレイク方面へと抜け、ダウンタウンに差し掛かった。
 と突然、スーパーカーに乗ったクソッタレに後ろから突っ込まれ、路上に投げ出された。ぶっ倒れている所にサブマシンガンの掃射を浴び、俺は死んだ。スーパーカーはそのまま猛スピードで去って行った。
 やれやれ。クソッタレは速い車に乗りたがる。そして無闇に他人を殺したがる。ひどい仕打ちを受けたが、しかし俺の気持ちは全く曇ることもなかった。俺の気分は頭上の青空のように晴れ渡っていた。るろうに剣心の「不殺」を貫こうと思えるほど、俺はリラックスしていた。もしくは、少し前に会ったBMX乗りのような泰然自若たる心地。
 陽が落ち、辺りは暗くなり始めた。ロサンゼルスの夜は治安が悪いと言われている。ただしそれは観光客にとって、だ。クソッタレにとっては昼間より安全と言える。なぜなら視認性が低下するためお互いの姿を捉えづらくなり、ドンパチの回数が減るからだ。
 俺は夜のロサンゼルスを鈍足スクーターで優雅に見て回った。
 それでも、クソッタレは湧く。いついかなる時でも、どこででも、ゴキブリのように出て来る。また別のスーパーカーが急接近してきた。スピードを落とし、俺のスクーターに追従した。スーパーカーにとっては徐行の速度であろう。俺はスーパーカーを無視し、笑ってしまうほどのろい速度で走り続けた。殺すなら殺せよ。何度殺されても、俺は気にしない。精神的優位に立っているのはこの俺だ。
 すると、スーパーカーはクラクションを鳴らした。その音は純正品ではなく、ワーグナーの『ワルキューレの騎行 』のブラス部分が大音量で鳴り響いた。『地獄の黙示録』でヘリが突撃するシーンが頭に浮かんだ。なんという悪趣味。俺は不覚にも笑ってしまい、スクーターを停車させた。それに合わせてスーパーカーも停車した。俺の出方を待っているようだった。たぶん、隣に乗ってほしいのだろう。
 俺はスクーターを降り、スーパーカーの助手席に回った。ドアを開けようとすると、ロックされていて開かない。どんなイタズラだ。乗せる気なのか乗せない気なのか、どっちなんだ。
 何度かドアをガチャガチャ言わせていると、先方もそんなつもりはなかったのだろう、ドアロックを解除してくれた。のみならず、彼は運転席から降りて助手席へ回った。
 俺はこの時、初めて彼の顔を見た。顔というか、サルのマスクをかぶった頭部を。そのサルはアニメキャラクター風の外見だが、目つきが据わっており、葉巻をくわえている。この男、どう考えても普通の人間ではない。
 彼は「あんたの好きなように運転しろ」と言った。必然的に俺が運転席に座ることになる。少し戸惑ったが、俺はこの好意に甘えることにした。遠慮せず荒い運転をした。
 初めてスーパーカーを運転した感想。リニアモーターカーもこんな乗り心地なのだろうか。ほんの少しアクセルを踏み込むだけで物すごい推進力で加速した。タイヤのついた乗り物が地上を走行しているとは思えない。浮かび上がる未来の車が地上数センチの高さを滑っていくようだった。
 カクテルライトが照らすオレンジ色の道路。対向車線を無数に漂う、2つ1組のヘッドライト。そんな見通しの悪い道を逆走していれば、畢竟、事故を起こすのは時間の問題だった。縫うように走ったが、俺は対向車と正面衝突を何度もした。スーパーカーのヘッドライトはすぐにつぶれ、前方はますます暗くなった。
 助手席のクソッタレは俺の粗暴な運転に気を悪くするわけでもなく、黙ってカーナビの目的地を設定した。マップに紫色のルートが表示された。どこかに向かえというのだろう。俺は紫色で示されたルートを、安全運転など全く心がけず、必要もないのにレーシングカー並の速度でなぞっていった。あちこちに車をぶつけた。曲がり角に差し掛かるたびに、ハンドル操作が間に合わず建物に激突した。車体をボコボコにへこませ、目的地めざして一心不乱に爆走した。