ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

エコーパーク

 ハンドル中央を押すたびに、ラッパの音が『星条旗』を派手に鳴らす。竹槍マフラーは軽い爆発音をさせながら閃光を発する。俺は嬉しくなって蛇行運転を繰り返した。過剰なまでのオーバーステアであり、サイドブレーキを引かなくても勝手に後輪が滑った。峠を攻める『頭文字D』のハチロクを気取ってドリフトしまくった。タイヤから赤い煙がモクモクと立ち籠め、道路が出血しているようだった。
 何度も一般車と衝突した。
 ハチロクはマフラーから火を噴きながら坂道を上り、ロサンゼルスでは比較的おとなしい地区に入った。
 この辺りには武器屋や自動車修理工場はないし、高台に位置していて交通には不便である。クソッタレどもの生活導線からは外れている。そのため、あまり騒がしい感じはしない。南米系の住民が多く、アート系の学生街のような雰囲気。住宅のほかに、店舗としてはブティック、雑貨屋、バー、ダイナーが多い。多くの場所で、塀や家の壁に美しい壁画を見ることが出来る。
 俺は偶然、美しい公園「エコーパーク」に到着した。周辺地域名の由来とも成っている公園であり、ここは、ユニークなビデオ制作で知られるロックバンド「OK GO」のミュージックビデオ『End Love』が撮影された場所でもある。このビデオの最大の特徴は、めまぐるしく再生速度が変わること。時に早送り、時にスローモーションになる。4倍速・8倍速・16倍速・64倍速は言うに及ばず、16分の1のスローモーションから17万倍速のタイムラプスまで、あらゆる再生スピードが、1本のビデオの中にぶち込まれている。
 ビデオで観た景色が目の前に出現し、俺は興奮した。
 公園の中央は池である。池を取り囲むように芝生が生えており、貸しボートの事務所が建っている。池にはボートが何艘か浮かび、水鳥が泳いでいる。芝生ではピクニックに来ている家族連れがレジャーシートを敷いてのんびりとした時間を過ごしている。そのそばで人によく慣れた野鳥が羽を休めている(『End Love』の後半では、野生のカモがまるでペットのようにバンドにまとわりつく。このカモは「マリア」と名付けられるが、のちにオスであることが判明して「マリオ」に改名された)。
 浮かれていた俺はハチロクに乗ったまま池に突っ込んだ。浅いと思ったのだ。軽率だった。ハチロクはエンジンを唸らせるが、深みにはまり、タイヤを空転させた。必死に脱出しようとしたがエンジン音は弱弱しくなり、やがて止まった。カーラジオも沈黙した。エンジンルームが水没したのだ。
 俺は仕方なくハチロクを乗り捨て、ザブザブ池の中を歩いて水から上がった。改造したばかりなのにさっそくダメにした。保険会社に連絡すると、「お客様ご自身の過失なので」ということで、修理費を取られることになった。
 ハチロクを修理に回している間の代用品として、俺は公園の駐車場に停まっていたスクーターを盗んだ。アクセルグリップを思いっ切り回しても、メーンという情けないエンジン音しかせず、BMXに毛の生えた程度のスピードしか出ない。それでも俺はこのスクーターが気に入り、低速運転で例の自動車修理工場に運び込み、ナンバープレートを付け替え、自分の愛機として登録した。