ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ベースジャンプ

 酒が残っているのか、ウェルカミングワンドらしくもなく、運転はおぼつかない。何度も壁や電柱に激突し、その度に2人仲良く地面に投げ出された。
 傷だらけになりながら、ロサンゼルス国際空港に到着した。レトロプロダクトと6輪ベンツで訪れた以来の再訪。あの時のように関係者用の通用口から入るのかと思いきや、バイクは空港の敷地に隣接したゴミ捨て場から、ゴミのコンテナの傾斜を利用して大ジャンプをした。絶叫マシンが垂直落下した際の低重力状態。時間の進み方が遅くなる。バイクは高いフェンスを楽々飛び越え、滑走路に侵入した。
 駐機中のヘリコプターに乗り込んだ。ローターが回転を始めると、あっけなく離陸した。眼下に広がる滑走路。旅客機の離着陸が間近で見える。すごい大迫力。と言うか、こんなに迫力があってはいけないのでは。もはやニアミスとも言える近さだった。
 ヘリコプターは北へ飛ぶ。大きな屋内競技場の上空を通過すると、低所得者層向けの住宅が鱗のように地上を覆っているのが見えた。そして、ダウンタウンの高層ビル群。旅客機で飛んだ時はアクロバティック飛行だったが、今回はヘリコプターによる安定した空中旅行なので、俺は観光客の気分でウキウキと景色に見とれた。
 やがて前方にハリウッドサインが見えてきた。山頂付近に白い巨大な看板、H、O、L、L、Y、W、O、O、D。あの裏側で、俺だけ墜落死したっけなあ。
 見る見るうちに、ハリウッドサインが大きくなる。本来ならばトレッキングコースを長時間歩いてやっと辿り着く場所だったが、あっという間に到着した。ヘリコプターは看板の裏側、わずかな面積の平地に器用に着陸した。俺たちはヘリから降りた。へ~、看板の裏側ってこうなってるんだ。観光地らしい落書きがいっぱいされている。その多くは自分の名前や恋人の名前を書き記したものだった。もちろん「キルロイ参上」も。そして、ハシゴが架かっており、ウェルカミングワンドは有無を言わさずこれに登り始めた。俺も続いた。
 看板の上からの景色は筆舌に尽くしがたい絶景で、ロサンゼルスの都市を一望できた。俺たちは今一度祝杯を挙げ、瓶ビールを一気飲みした。タバコを吹かし、足下に横たわる大都市を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごした。
 ウェルカミングワンドがパラシュートを背負った。どうやらここからベースジャンプをするつもりらしい。この「ベース」とは、土台とか基地とかいう意味ではなく、Building(建築物)、Antenna(鉄塔)、Span(橋桁)、Earth(断崖)の頭文字略語だ。飛行機から飛び降りるスカイダイビングと違い、地上への距離がケタ外れに近い。パラシュートをひらくタイミングを間違えればすぐ死に直結する。その昔、なかなか映画に出演できないことを苦にした新人女優が、Hの文字から投身自殺したことがある。その二の舞にならねば良いが。
 ウェルカミングワンドはいともたやすく飛び降りた。一瞬で、地上まですでに数メートル。死ぬ! 俺は思わず悲鳴を上げた。と、彼は山の斜面に激突するスレスレで虹色のパラシュートを花開かせ、優雅に空中散歩を開始した。腰が抜けるかと思った。恐るべき蛮勇だと思った。
 ウェルカミングワンドの雄姿を俺はじっと見守っていた。しばらく虹色のパラシュートに視線を集めていると、突然、何が起きたのか、パラシュートから彼の体が分離され、彼はあっけなく墜落死した。
 彼は必死に斜面をよじ登り、ゼエゼエ言いながらはしごを上がり、俺の立っている看板の上に戻って来た。彼が息を切らしつつ語るところによれば、どうも俺も飛ばなければならなかったらしい。後ろを振り返ってもついて来ている様子がないから、これ以上距離が開くのを避けるため、死ぬのを覚悟で自分からパラシュートを切り離したらしい。
 ウェルカミングワンドはパラシュートを再び背負い、俺にも渡した。そんなご無体な。スカイダイビングなんてしたことないよ。
「このひもを引けばパラシュートひらくから」という簡単な説明のみで、彼はまた飛び降りて行ってしまった。せっかち過ぎる。
 死んだからって、別に。そう自分に言い聞かせ、俺も意を決して飛び降りたが、怖いのですぐに開傘した。ふんわりと宙に舞ったが、操作がよくわからない。とりあえず両手でひもを握っているので引いてみた。引っ張れば引っ張るだけ落下速度が落ちるようだ。右だけ引っ張れば右に旋回し、左だけ引っ張れば左に旋回するようだ。ウェルカミングワンドとの距離がグングン離れるので、ひもを引っ張るのはほどほどにした。
 俺たちは山の麓に着地した。ウェルカミングワンドは足から綺麗に着地したが、俺は足をもつれさせ、ぶざまに地面を転がった。