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ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

アパートに招待される

 高級車を盗み出す仕事をやり遂げると、ウェルカミングワンドは俺をバイクに乗せ、コリアタウンの西に移動した。どうやら仕事の成功を祝って乾杯するため、自宅に俺を招待してくれるらしい。
 周辺の景色に呪術めいた記号が増殖した。ハングル文字の書かれた看板だった。まるで韓国そのものであり、通りにも店にもアジア人がうようよしている。フィリピン人であるウェルカミングワンドも、アジアのコミュニティを求めてここに在住しているのかも知れない。
 ビバリーヒルズなどとは比ぶべくもない、普通の住宅街に差し掛かった。時速150キロメートルで爆走していたバイクは80キロまで減速し、やがて一軒のアパートの前で停車した。ガレージのシャッターが開くと、バイクは徐行運転で中に進んだ。
 ウェルカミングワンド専用のガレージには、今乗って来たバイクを含めて2輪車が3台。2人乗りのスポーツカー2台。4人乗りのセダン1台。計6台の乗り物が収まっていた。俺はまじまじと彼のコレクションを観察した。スポーツカーのうち1台は紫色で、ホイールは$マークだった。あまり良い趣味とは言えないと思った。しかし、これほどまでに車を集めるのはうらやましかった。全て自分のお金で買った車なのかどうかは、クエスチョンマークが点灯したが。
 俺がまじまじとマシンを眺め、時々ため息をついたりして頻りに感心していると、ウェルカミングワンドは1台1台について詳細な解説を加えた。自動車用語と思われる、聞いたこともない単語が頻出した。俺はぽかんとしたまま、耳を傾けているふりをした。マシンのスペックについてはさっぱり理解できなかったが、1つ気付いたことがある。彼が「ファック」という単語を、まるで空気を吐呑するような感覚で多用することだ。「ファック・ザ・ポリス」のようにネガティブな意味で使うのはもちろん、「ファッキン・スーパー・カー」のようにポジティブな意味でも使った。日本における「クソ」と似ているかも知れない。例を挙げれば、「いけすかないヤツ」という意味で「クソ野郎」、「すごくかっこいい」という意味で「クソかっけー」と言うように。ただ、日本語の「クソ」よりも英語の「ファック」はかなりドギツイ言葉であり、あえて翻訳するなら「おまんこ」か「おめこ」だろう。マンコおまわり。おめこスーパーカー。公の場で口にするのは憚れる。
 自慢の愛車についての解説を一通り終えると、ウェルカミングワンドは自室に俺を招じ入れた。カーテンを閉め切った室内は暗く、スナック菓子の袋や読みかけの雑誌で乱雑に散らかっていた。自家用車を複数台所有している人の住む場所とは思えなかった。あのスポーツカーも、俺のハチロク同様、きっとどこかで盗んできたものだろうと思えた。
 システムキッチンにはワインやウィスキーなどの酒瓶が豊富に置いてあった。俺たちはそれぞれ好きな酒を選んでグラスに注ぎ、「チアーズ!」と叫ぶと、グラスの中身をグイグイ喉に流し込んだ。グラスが空になるとすぐにおかわりを追加した。何杯も何杯も、立て続けに琥珀色の液体を摂取した。
 2人とも足元がおぼつかなくなり、よろよろと室内をさまよった。体温が上がり、目の周りが熱くなり、耳が遠くなり、視界がふわふわした。
 ラジオをつけるとレディー・ガガが歌い始めた。
 ウェルカミングワンドはクローゼットで着替えを始めた。俺はその間手持ちぶさたになったのでソファーに座ってテレビをつけた。アニメが放映されている。俺はリモコンを操作し、チャンネルを次々に変えた。幾度かのザッピングの末、辿り着いたのはニュース番組。ハリウッド大通りの中継映像で、2人組のクソッタレが暴れている様子を生放送で伝えていた。2人は銃を乱射し、戦う意思のない哀れなクソッタレをエンドレスで殺していた。2対1で。
「これ今まさにハリウッドで起きているんだよな。治安悪いなあ」
 俺はテーブルの上にあった水タバコの吸引具に手を伸ばした。日本の雑貨屋で見かけた事があるので、吸い方は心得ていた。ホース状のパイプをくわえ、火を使うと、水がコポコポと泡を出した。煙を灰に溜めた。しばらく呼吸を止めたあと、ゆっくり息を解放すると、濃い煙が口からエクトプラズムのように出た。その動作を何回か繰り返すと、なんだか妙に笑えてきた。タバコじゃなくてマリファナかも知れない。
 空軍の軍服に着替えたウェルカミングワンドが、俺の隣に座り、水タバコを使った。彼もニヤニヤし始めた。俺たちはしばらく世間話をした。ウェルカミングワンドは相変わらずファックを連発した。
 俺たちは再びガレージに移動した。1番のお気に入りなのであろう、レーサータイプのバイクにウェルカミングワンドはまたがった。クラクションを鳴らし、後ろに乗るよう促した。
 ガレージを出庫すると、バイクは南へ向かった。