ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

高級車を盗み出す仕事

 ウェルカミングワンドがスマホを取り出す。彼は悪徳カーディーラーの依頼を受注した。ビバリーヒルズの豪邸から、高級車を2台盗む仕事。俺もその仕事に加わることにした。
 ウェルカミングワンドはバイクにまたがり、クラクションをパフッと鳴らした。何度聞いてもこの音には笑ってしまう。俺がタンデム・シートに座ると、彼は必要以上にアクセルグリップを回し、猛スピードでグリフィス天文台を後にした。その際も正規のルートではなく、崖に近い山肌を下った。それはまるで源義経鵯越の逆落としのようであり、生きた心地がしなかった。
 市街地でもアクロバティックな運転を繰り返した。一番驚いたのは、スロープの傾斜を利用して大ジャンプをし、空中で下から上に一回転するという曲芸。見事成功させたが、調子に乗って再チャレンジした2回目、飛距離が足りなかったため俺たちはすさまじい勢いで頭から地面に落ちた。毛髪が根こそぎ削り取られるかと思った。
 大きな道路をひた走ること数分、辺りはすっかり高級住宅地となる。会員制の高級ゴルフコース「ロサンゼルスカントリークラブ」の西、目的地に到着した。
 お目当ての屋敷は豪壮な鉄製の門で閉じられており、その門扉には電子ロックが施されていた。ハッキングし、ロックを解除しなければならない。ウェルカミングワンドが制御盤をイジり始める。俺は手持ちぶさたに、周囲を見張ったりタバコを吹かしたりして、電子ロックが解錠されるのを待った。
 数分後、ハッキングは成功し、門は電動で横に滑り開いた。俺たちは忍び足で邸内に侵入する。屋敷のポーチ近くに、クラシックスポーツカーのフェラーリと、ロールスロイスが並んで駐車していた。俺がフェラーリ、ウェルカミングワンドがロールスロイスに乗り込む。エンジンの始動音に気付いたのか、警備員が警棒を振り回しながら慌てて俺たちを捕縛しようとむしゃぶりついてきた。彼らの何人かを轢き、高級車2台は公道に飛び出した。
 パトカーのサイレンが聞こえる。通報されたのだ。どうすれば良い。これら高級車は最高時速こそ目を見張る数値が出たものの、加速力は低く、最高速に到達するまでにしばし時間を要した。ハンドリング性能も低く、カーブでしばしば横滑りした。逃走には不向きである。
 時間の問題ではあったが数台のパトカーに遭遇し、容赦のない体当たりを食らった。それでもおめおめと両手を挙げるわけにはいかない。俺たちは走り続けた。パトカーの追跡は熾烈を極めた。とても逃げきれそうにない。なんら解決策を思いつかなかった俺は、ただひたすらウェルカミングワンドの運転するロールスロイスの後についていった。
 ロールスロイスは一般道を外れ、丘の斜面を登り始めた。なだらかな傾斜を巧みに選び、複雑な経路を通ってグイグイと登っていく。俺も同じ経路に従った。パトカーは直線的に俺たちを追ってきたため、突き出た岩などにぶつかり、追跡不能となった。
 ウェルカミングワンドは丘の上で停車し、エンジンを切った。俺もそれに倣い、エンジンを切った。草むらから虫の鳴き声、空から鳥の囀りが聞こえる。静かだ。いつまでこうしていれば良いのか。俺は車を降りて彼に近づいた。彼は静かに座席に掛けたまま、警察無線を傍受していた。無線の声が俺たちの追跡を断念するまで、彼は黙ってじっとしていた。
 英語が不得意な俺は、ただ彼の出方を窺った。数分後、彼はコクリとうなずいて、エンジンを再始動させた。警察を完全にまいたということなのだろう。俺もフェラーリに戻ってエンジンを眠りから起こした。
 慎重に丘を下り、市街地に通じる幹線道路を爆走した。何度か事故ったが無事、カーディーラーに車を届けた。高級車はパトカーの猛烈な接触により傷だらけになっていたが、報酬は充分に支払われた。