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ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ウェルカミングワンド/グリフィス天文台

 愛車ハチロクを出庫し、俺はさっそくロサンゼルス観光に出かけた。土地勘が皆無で主要な観光地も知らないから、とりあえずあてどもなくドライブすることにした。
 ガレージの周辺エリアはとにかく陰気で、少し信号待ちするだけで気が滅入る。赤信号ではあるが交差点に進入した。そして今後、信号の一切を無視することにした。青だろうが赤だろうが渋谷に匹敵する規模のスクランブル交差点だろうが何だろうが、とにかく走り続けることにした。制限速度も「外国人ダカラまいる表記ヨクワカリマセン」という態度で無視した。もし行く手が渋滞していたら、たとえ急いでなくても対向車線を逆走した。──その後ずいぶんと交通違反をしたが、警察に追われたことは一度もない。交通事故は水を飲むのと同じ頻度で経験したが。
 だからと言って、ストリートレースの時みたく極限のスピードを追い求めたりはしなかった。周囲の景色を楽しむ余裕くらいはある、ほどほどの速度、大谷翔平投手の球速くらいの速度で車を転がした。
 周囲の車の流れとはあきらかに異質なハチロク。その挙動に何か感じるものがあったのか、1台のバイクが接近してきた。レーダーで確認すると、丸が表示されている。俺のようなクソッタレだ。
「まーた殺しに来たのか。俺は殺しはやらないよ、殺るなら殺れ」
 非暴力を貫き通そうと思い、ピストルは手にしなかった。
 ハチロクバイクは並走した。攻撃してくる気配は一切ない。ツーリング気分なのだろうか、まるで先導してくれているようだった。この人もレトロプロダクトのように良い人で、友達になれるかも知れない──俺は愉快な気分になり、喜々としてバイクの後に従った。彼はヘルメットをかぶっておらず、整髪料で固めたオールバックの黒髪が陽に光っている。ミラーサングラス、ワインレッドの革ジャンを身に着けている。
 曲がり角を右折する際、そんなつもりはなかったがバイクに接触した。どちらも高速走行中だったため、バイクは派手に転倒し、ライダーは投げ出され路上に激しく打ち付けられた。
「これは怒っただろう……。殺されても文句は言えないな」
 俺はハチロクを停車させ、相手の出方を待った。すると、ライダーは何事もなかったかのように立ち上がり、バイクにまたがり、「気にしてない」と言わんばかりにクラクションを鳴らした。ピエロ風の、 パフパフ鳴る滑稽な改造ホーンを。
「やっぱり良い人だ。以前ハチロクを強奪した奴とは雲泥の差だ」
 俺たちは連れ立ってのドライブを再開した。周囲から徐々に店が減り、住宅が増えていく。青空がオレンジ風味を帯び、地上部分も黄金色にメッキ加工される。センターラインのない、ゆるやかで美しい坂道に入ると、そこは交通量の少ない閑静な住宅地だった。広い庭を有する豪邸ばかりが並んでいる。丘にある高級住宅地という連想で「これがいわゆるビバリーヒルズか」と思った。──後から知ったことだが全然違う地区であり、ビバリーヒルズとは何の関係もなかった。
 坂を上り切ると茶色い山肌が見えた。ロサンゼルスの犯罪者は、行く手が山と見るとすぐショートカットしたがる。決して舗装された山道をくねくね辿ったりはしない。バイクは道を外れ、斜面を上がり始めた。俺のハチロクも追走したが、当然ながら遅れを取り始め、しまいには木にぶつかって立ち往生した。「置いていかれるだろう。ここでお別れだな」と思った。さみしいが仕方がない。
 するとバイクは、せっかく上った標高を惜しむこともなくUターンし、俺の所まで直滑降で降りて来た。停車し、クラクションをパフパフ鳴らした。乗れ、というサインだった。
 ハチロクを乗り捨て、彼の後ろにまたがった。やかましい爆音を轟かせ、バイクは急発進した。すごく怖かった。いつ転倒してもおかしくない、命を粗末にした走り方だった。その走りは暴走族の比ではなく、むしろスタントマンに近かった。
 山頂に、宮殿のような建物が見えて来た。グリフィス天文台ジム・キャリー主演の映画『イエスマン』で、ジョギングしながら写真を撮る同好会のシーンで使われた場所だ。俺たちは駐車場にバイクを停め、天文台の外壁に沿った回廊を歩いた。テラスの眼下にはさきほど通過してきた高級住宅地が広がり、遠くにダウンタウンの高層ビルが見えた。
 バイクの男はコードネームを「ウェルカミングワンド」と言い、フィリピン人だった。ギャングとしてのランクは中程度だったが、とにかくバイクの運転がうまかった。
 俺たちは義兄弟の契りを交わした。そして一緒に、闇に沈んだロサンゼルス市街が宝石で煌めくのを見た。夜空から星を振るい落とした夜景だった。