ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ハリウッド

 気が付くとウェルカミングワンドの姿は消えていた。俺は仕方なく、ロサンゼルス観光を再開することにした。ハチロクを整備士に配車してもらい、一人乗り込む。そうして、行きたかったがあえて行かなかった場所、お楽しみとして取っておいた場所、映画の都ハリウッドに愛車を走らせる。

 ウォーク・オブ・フェイム。ハリウッド大通りの両サイドには、星形のプレートが埋め込まれた歩道が延々と続く。星の中には、芸能界で功績のあった人の名前と、その人が活躍したジャンルを表すシンボルマーク(カメラは映画界、レコードは音楽業界、テレビはテレビ業界、マイクはラジオ業界、マスクは演劇界)が書かれている。プレートの数は2500以上あるらしく、すべてを見て回るわけにはいかない。日本人の俺にとっては、映画と音楽の著名人しかわからない。しかし知っている名前に出くわすと嬉しくなるものだ。ミーハーだとは思ったが何枚も写真を撮影してしまった。化粧品のマックス・ファクターがあったのには驚いた。俳優のメイクでもしていたのだろうか。

 チャイニーズシアター。頭に「TCL」とか「グローマンズ」とか付くこともあるが、これは「味の素スタジアム」「田中浩康スタジアム」と同じノリなので気にしなくて良い。
 映画の都ハリウッドにはいくつも映画館があるが、その中でも一番有名な映画館だ。と同時にロサンゼルス屈指の観光スポットであり、常に観光客でごった返している。アジアンテイストの外観も見ごたえはあるが、何といっても映画館前の前庭が有名だ。ウォーク・オブ・フェイムの星形プレートとは別に、特別な敷石が何枚も埋め込まれている。セメントタイルに、スターの名前と、そのスターの手形や足形が刻まれているのだ。映画ファンなら誰もが知っているスーパースターたちばかり。アルパチ、ブラピ、ジョニデ、シュワちゃん、C3PO……。スターの手形に自分の手をはめて大きさ比べをするのも楽しい。 

 ハリウッド&ハイランド。映画館・ホテル・レストラン・ブティックが集まるショッピングモールで、この辺りには有名映画──ディズニーやスターウォーズのキャラクターが沢山いる。趣味でコスプレをしているのかと思いきや、ツーショット撮影でチップをねだるストリートパフォーマーだった。それから、ストリートダンサーや、自作CDをプレゼントし「ツイッターフェイスブックで拡散してくれ」と頼んでくるミュージシャンの卵もいる。こいつらも、好きにさせておくとチップを要求してくるから油断ならない。

 屋根の無いマイクロバスが駐車していた。セレブの豪邸を見学して回るツアーバスらしい。ハリウッドを出発し、ビバリーヒルズやロデオドライブ、サンセットストリップ、デヴィッド・リンチの映画で名を知られたマルホランドドライブなどを巡るようだ。山出しのお上りさんである俺は、ツアー料金も特に気にせず、すぐさま参加を決定した。
 自分の運転に比べるとバスはやきもきするほど低速だった。そして音声ガイドは英語だった。同乗した客たちはなるほどと言った顔で説明を聴きながら、カメラのレンズを左右に向けている。俺は説明を聴き取れなかった。さっぱりわからなかった。とどのつまりさっぱり面白くなかった。この退屈が1時間近く続くのかと思うとうんざりした。俺は運転手を後ろからしこたま殴りつけ、運転台から引きずり下ろした。おならの大合奏みたいな悲鳴が車内に充満した。おびえる乗客たちを無視したまま、観光ツアーを引き継いだ。
 入り組んだ坂道をバスらしからぬ速度で上っていく。周囲はプール付きの大豪邸ばかりだ。高級住宅地ハリウッドハイツ。映画スターなどの有名人や大富豪が暮らしている。東京の山の手もそうだが、どうして金持ちは高台に居を構えたがるのだろう。下界を見下ろす優越感があるからだろうか。
 俺自身は、この辺りに住んでみたいとは微塵も思わなかった。ちょっと一泊させてもらうくらいなら良いが、何カ月も寝起きする気にはなれない。確かにベランダから見える眺望は素晴らしいものだろう。しかし、付近に店などはないから丘を下りて買い出しをしなければならない(もちろん日用品の買い出しは執事やメイドがするのだろうが)。道は狭く急坂で曲がりくねっており、見通しも悪い。はなはだ移動に不便だ。
 俺は何度か高級車と出合い頭の衝突をした。付近に暮らすセレブだろう。スピードを出している俺が悪いのだが、とりあえず中指を突き立てておいた。
 バスは坂を登り続け、どの家が誰の家かろくにわからぬまま、住宅地を脱した。そのまましばらく運転を続け、ハリウッド・ボウルに至って停車した。乗客はここぞとばかり座席から飛び降り、方々に逃げ惑った。安心して。俺は無益な殺生はしないよ。
 ハリウッド・ボウル。野外劇場で、日本でいえば日比谷野外音楽堂のような格。ステージによじ登ってみた。このステージにビートルズモンティ・パイソンが立ったのかと思うと感慨深いものがある。ステージ上で「ツイスト・アンド・シャウト」を歌い、「アルバトロス!」と叫びながら客席を練り歩いた。