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ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

初めての戦闘

 草すらまともに生えていない乾燥地帯。向こうから砂塵を散らしながら一人の男がジグザグに走ってきた。俺を殺そうとしたパイロットだった。俺&レトロプロダクト組vsパイロット。2対1のデスマッチが始まった。鳴り響く3種類の発砲音。さながら現代音楽のような不協和音。レトロプロダクトのライフルと敵パイロットのマシンガンは持続音を奏でる弦楽器のようで、俺のピストルは断続的に破裂音を差し挟む打楽器のようだった。
 パイロットは、フライングスーツに身を包んでいるとは思えない俊敏な動きで、俺たち2人を相手にした。レトロプロダクトに弾幕を張る一方、後転して退きながら俺の方に銃弾を浴びせることも忘れない。レトロプロダクトがカービンライフルを掃射し、パイロットに深手を負わせるその間に、俺はパイロットのマシンガンの餌食になった。俺とパイロットはほぼ同時に死んだ。
  レトロプロダクトを中心に挟んで、俺とパイロットは別々の場所に離れて復活した。無傷の状態に戻ったパイロットは、瀕死のレトロプロダクトをすぐさま強襲し、力任せに撃ち合いを制した。レトロプロダクトは全身から血を噴き出しながら地面に倒れ、絶命した。憧れの人を殺された俺は逆上し、鬨の声を挙げながらパイロットに急接近した。走りながら発砲し、何発か当てた。パイロットは地面をローリングして俺の銃弾を交わしつつ、起き上がりざま体勢をこちらに向けると、マシンガンの掃射で俺の全身を正確に撃ち抜いた。俺は死んだ。
 俺が蘇ると、ちょうどレトロプロダクトがパイロットを始末する場面が目に入った。俺はレトロプロダクトに駆け寄り、両手の親指を立てて武勲を讃えた。レトロプロダクトはそれには応えず、敵に対して優位な位置に立つため足を止めることがなかった。
 パイロットは俺の背後に復活し、容赦なく背中から銃弾を浴びせた。俺は死んだ。そして右に左に側転しながらレトロプロダクトと熾烈な銃撃戦を繰り広げた。
 敵もさる者、レトロプロダクトとパイロットの腕は拮抗しており、一進一退を繰り返しながら、ほぼ同じ回数の死を相手に与え合った。俺の死だけが倍の速度で重ねられ、彼らの死の総和と同程度にカウントされていく。俺は1度もパイロットを仕留めることができなかった。もう少しで殺せそうなケースもあったが、その時はレトロプロダクトがとどめを刺した。2対1ではあったが、実際にはプロの殺し屋とプロの殺し屋のタイマン勝負であり、時々そこにシロウトの俺が茶々を入れる、という構図だった。
 レトロプロダクトは10回以上パイロットを殺し、10回以上死んだ。パイロットもまた、10回以上レトロプロダクトを殺し、10回以上死んだ。俺だけが20回以上死んだ。
 長期戦になって段々と、レトロプロダクトの方が優勢となった。ガンマンとしてわずかに上だったし、それに、パイロットが俺を抹殺している一瞬の間に、レトロプロダクトがパイロットを始末するというケースが何度かあり、殺害回数に少しずつ差が開き始めた。
 やがて、何十回にも及ぶ攻防を経て、やっとのことでパイロットを退けた。パイロットは車などで逃走したわけではなく、何の痕跡も残さず地上から消え去った。
 俺はレトロプロダクトに力いっぱい敬礼をした。彼もようやく戦闘態勢を解除し、優しく、それはそれは優しく、俺に敬礼を返した。砂漠の空はすっかり深紫色に沈んでおり、辺りには俺たちしかいなかった。風の音しか聞こえなかった。頭上に瞬く星が、俺たちの勝利を祝福していた。
 このとき、俺とレトロプロダクトは義兄弟の契りを結んだ。後で知ったことだが、彼はアメリカ人ではなく、インド人だった。日本人の俺を、同じ境遇の存在として気遣ってくれたのかも知れない。
 これを書いている今となってはもう、2度と会う機会はない。だが、ロサンゼルス滞在中の恩人として、決して忘れることは出来ない。向こうが俺のことを忘れても、ずっと──