読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

ギャングたちに認められる

 どんなに頑張っても最高時速50キロメートルほどしか出ないし、たいていはスピンしてしまう。最高時速に達すること自体まれだ。
 ヒビの入ったカーナビを最寄りの修理工場に設定し、瀕死の体を引きずりながら病院に牛歩を運ぶケガ人みたいに、俺はのろのろと目的地を目指した。油断するとすぐにスピンする。急な坂道を上れないのである程度は自分でルートを考えねばならない。高地を迂回し、やっとの思いで平地に出た。ここから修理工場までは平坦な道が続くはずだ。
 と、2台のスーパーカーが暴風雨のような勢いで近づいてきて、俺の車を取り巻いた。また殺されるのか。やれやれ、好きにしてくれ。俺は突破をあきらめた。ブレーキをしたままアクセルを踏み、豪快にエンジンをうならせた。ハンドルを思いっ切り回すと車はその場で回転し、ホイールが火花を散らしながらガリガリとアスファルトを削り、その痕跡が大きな円を路面に描いた。
 スーパーカーから3人のギャングが降りて来た。真っ白なコートを羽織り、真っ白なテンガロンハットをかぶったサングラスの男。深紅のスーツ上下、見事なコーンロウ頭の男。青い半ズボンにファーストフードのロゴが描かれたTシャツ、情けない表情の豚マスクをかぶった男。3人とも武器を携えている。
 3人は、半ばやけくそ気味に路上でアクセルターンをかます俺の様子をしばらく観察していた。すると、旋回するハチロクの屋根に豚マスクが器用によじのぼり、屋根の上で腰ふりダンスを始めた。俺はリズミカルにクラクションを鳴らし、豚マスクのダンスとシンクロした。
 この時点で、もしかしたら仲良くなれるのではないかと思った俺は、車から降りた。すると、コーンロウがピストルで俺の頭に狙いを定め、テンガロンハットもライフルを構えた。いつでも殺す準備オーケー。さすがロサンゼルス。目の前の相手が敵か味方かわからない以上、彼らとて片時も気を抜くことは出来ないのだ。
 3人は俺の挙動を見守っていた。もし俺が不審な動きをしたら、たとえばピストルを取り出したりしたら、即座に殺すつもりだ。
 俺はハチロクに蹴りを入れた。繰り返し繰り返し。3人はさすがにおかしさをこらえ切れなかったらしく、笑い始めた。そして、バールや警棒で俺の応援に加わった。
 数分間、陽気なムードで破壊活動は続いた。エンジンルームから煙が立ち上った。不思議な安堵感があり、愛車が臨終に際していても悲しくなかった。ギャングたちとの名状しがたい一体感があった。
「ちょっとどいて」
 コーンロウが指示した。テンガロンハットと豚マスクはすぐにどいたが、俺は英語が聞き取れず車を蹴り続けた。そんな俺をコーンロウは不満に思うでもなく、根気よく「どいてくれ」を繰り返した。俺もようやく彼の英語を理解し、車から離れた。
 コーンロウはロケットランチャーを肩に担いで構えた。まさかとは思ったがそのロケット弾は本物で、ハチロクに向けて発射された。大爆発、炎上。ハチロクは黒焦げとなって燃え盛り、巨鯨が嘔吐する勢いで黒煙を吐き出した。俺は腹をかかえて笑った。涙が出たが、悲しくてではない。信じがたい光景に爆笑したからだ。おまえら軍人かよ。
「保険会社に電話しろ。俺の口座から修理費が全額引き落とされる」
 コーンロウは破壊衝動に突き動かされたわけではなく、俺のためにハチロクを破壊してくれたのだった。
 パトカーが騒ぎを聞きつけて集まってきた。3人はスーパーカーに乗り込んだ。独り取り残されてあたふたしている俺に、テンガロンハットがクラクションを鳴らして「乗れ」と合図した。俺は彼のスーパーカーに飛び乗った。