ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

はじめての仕事

 整備工場から出庫し、「このあとどうすっかなー。服でも買おうかなー」と思案した。が、とにかく俺には金がない。ひとまず仕事をして日銭を稼ごうと考えた。悪戦苦闘しながら、スマートフォンバイト募集のサイトに個人情報を登録した。
 しばらくぶらぶら歩いていると、見知らぬアドレスから英文のメールが届いた。ビジネスか何かの勧誘のようだった。スパムメールかも知れなかったが、金策に困っていた俺は、仕事の内容をよく理解せぬまま即「ok」とだけ返事をした。
 時を置かず2人の男が現れた。1人はサングラスをかけた白人で、髪は茶色の短髪、アディダスのジャージに身を包んでいた。もう1人はドレッドヘアーの黒人で、ラスタカラーのTシャツを着ていた。
「何が始まるんだろう。俺の英語力、中学卒業程度だけど、どうにかなるのかな」
 不安がっていると、深紅の4人乗りセダンにサングラスが乗り込んだ。ドレッドヘアーも助手席に収まる。これに乗るべきなのかどうなのか。ためらった俺は薄ぼんやりと歩道に突っ立っていた。するとクラクションがけたたましく鳴り響いた。パパンパパンパパーン。どうも乗れということらしい。仕事の現場まで連れていってくれるのだろう。しぶしぶ後部座席のドアをあけた。
 車内でドレッドヘアーにピストルを渡された。本物の。そして予備の銃弾も。
 車は南へ。アクセルべた踏みで次々に他の車両を追い越し、時には対向車線を逆走し、坂道でジャンプし、信号も無視した。道なき道に進入し、植栽や芝生や歩道や階段を走破した。何をそんなに急ぐのか、ものすごいスピードだった。だからといってサングラスは運転がうまいわけではなく、何度も衝突した。ガードレールに、道路標識に、建物の壁に、電柱に、他の車に、そして歩行者に。車は徐々にダメージを蓄積していった。バンパーはぶらぶらと揺れ、フロントガラスが大破し、助手席のドアがもげた。ドレッドヘアーは車外に腕を突き出し、中指を立てている。俺は座席に深く座って腕組みをし、車の後方にすっ飛んでいく景色に物憂げに視線をさまよわせた。
 やがて車はトラ縞のゲートをくぐり、未舗装の道路を下り始めた。通行する車は他に無く、周囲に人の気配もない。いまだ目的地は不明なものの、この先ゴミ処理場にでも通じているのだろうか。荒っぽい運転をして車をオシャカにする仕事か?
 突き当たりに人がたむろしているのが見えた。今にもギャングスタ・ラップでも始めそうな風貌の黒人集団だった。本物のギャングかも知れなかった。
 廃車寸前のセダンは集団から少し離れた場所で停車した。サングラスとドレッドヘアーが車を降り、中腰の状態で小走りに駆け始めたので俺も後に続いた。これからギャング集団と商談でも行なうのかと思ったが、2人とも手にピストルを携帯している。決して友好ムードではない。
 サングラスはギャング集団から30メートルほど離れた木箱の前でしゃがみこんだが、ドレッドヘアーはそのまま突進していった。と、突然ギャングの1人が倒れた。ドレッドヘアーが走りながらピストルを乱発して仕留めたのだ。
 蜂の巣を突ついたような騒ぎとなった。ギャング集団も武装しており、応酬した。やつらの武器はピストルは言うに及ばず、連射できる片手持ちの銃火器さえあった。サブマシンガンというやつだろう。相手は10人近い人数であり、こっちは3人。しかも俺はピストルを持つのも初めてで、ろくな戦力にはならない。
 激しい銃撃戦が始まった。サブマシンガンから発射された数発の銃弾が俺の手足に当たった。血が噴き出たが、不思議と痛みは感じなかった。痛みはなかったが、ただ死への恐怖だけがあった。「このまま撃たれ続けたら死ぬ」という確信だけが。怖くなって壁沿いに隠れた。何も出来なかった。
 サングラスは顔と銃口を木箱の陰から出したり引っ込めたりしながら、的確にギャングを撃っていった。ドレッドヘアーは遮蔽物から遮蔽物へと移動し、ピストルを持った手だけを物陰から出し、闇雲に銃弾を発射していた。俺はただじっとしていた。1度も引き金に指を触れることなく。
 サングラスもドレッドヘアーも何発か被弾していたが、相手の被害の方が甚大であり、残り3人ほどがフェンスやワゴン車の後ろに隠れているのを残すのみとなった。サングラスは敵の隠れている辺りに手榴弾を投げ込んだ。ワゴン車が爆発炎上し、その爆風はフェンスを吹き飛ばした。
 辺りは静かになった。敵は全滅したようだった。
 敵陣に湧いた血の海にドレッドヘアーが走り寄り、ハンドバッグほどの大きさの包み紙を拾い上げた。脱兎の如き勢いでサングラスがセダンに飛び乗り、俺とドレッドヘアーも続いた。車は大慌てで発進した。エンジンルームから白い煙がほくほく立ち昇る。
 車内でドレッドヘアーからすごく叱られた。英語に暗いので何と言っているのか詳しくわからないが、すごく怒られた。俺がまったく攻撃をしなかったことに怒り狂っているようだった。かろうじて「もっと働け、まぬけめ!」だけは聞き取れた。サングラスは無言だった。しかしその運転は相変わらずズボラだったので通行人を何人か撥ねた。
 車はいかにも治安の悪そうな地域を無遠慮に爆走し、やがて一軒のボロアパートの塀に突っ込んで停止した。車から降り、アパート1階の一室の呼び鈴をドレッドヘアーが押すと、ゆっくりと外を窺うようにドアがひらき、中から色眼鏡をかけた黒人のデブが顔を出した。戦利品である包み紙をドレッドヘアーが渡すと、デブは無言でそれを受け取り、俺たちに報酬を支払った。何もしていないが俺は800ドルを受け取った。
 ぼんやりと立ち尽くしていると、ドレッドヘアーがピストルを構え、銃口を俺に向けた。そして躊躇することなく俺の顔面を撃ち抜いた。俺の後頭部から脳漿と鮮血が爆ぜた。
 真っ赤に染まり薄れゆく意識の中で、ドレッドヘアーが走り去るのが見えた。
 視界が真っ暗になった。
 次に光を感じたときは、殺害現場から100メートルほど離れた場所に立っていた。顔面は何事もなかったかのように復元していた。サングラスが向こうから駆け寄ってきた。ドレッドヘアーの姿はすでになかった。
 サングラスは右手で自らの顔をおさえ、残念そうに首を左右に振った。俺は何もせず彼を見守った。ピストルでギャングを撃ち殺していたが、根はいい人そうだった。俺は彼に敬礼をした。
 すると突然、何か気に食わなかったのか、サングラスは鉄拳制裁をお見舞いしてきた。俺のことをしこたま殴りつけたのだ。しかも、1発だけではなく、2度3度。わけがわからなかったが自己防衛のため応戦した。俺の放った右ストレートがサングラスの側頭部をとらえた。彼はいよいよ頭に来たのかピストルを手にし、俺の頭蓋骨を銃身でかち割った。
 また死んだ。暗転。