ロサンゼルスの思い出

GTAオンライン(Xbox360海外版)の小説化

サルマスクと一緒に警察から逃走する

 スーパーカーは俺の粗暴な運転のせいで大きなダメージを受けており、エンジンはなかなか掛からなかった。セルモーターがキュルキュルと空回りをする。キーを捻ること数回、ようやくエンジンを死の淵から目覚めさせた。
 逃走を開始した。
 光沢のあったアメジスト色のペイントは、度重なるクラッシュによって傷だらけになり、引っ掻き傷で塗料が白く剥げている様はさながらハトのフンの豪雨の中を走ってきたようだった。
 スーパーカーはもはや瀕死の状態にあり、本来の馬力が出るはずもない。ビジュアル相応の、ぶざまな速度で走行した。
 警察の追撃は、仲間を皆殺しにされた恨みからか、これまで見たこともないほど苛烈な物だった。逮捕することなど全く想定していない、俺たちをスーパーカーごと亡き者にしようという怨念をひしひしと感じさせる激しさだった。ここはデストラクションダービーの会場かと錯覚するほど、数台のパトカーが捨て身の体当たりを代わる代わるお見舞いしてくる。上空からは、ヘリコプターに乗った特殊部隊が自動小銃で銃弾の雨を降らせて来る。
 エンジンルームから出る煙は、初め、線香のように細く白く立ち昇っていたが、やがてその量を徐々に増していき、今では火葬場の煙突から出る黒煙のように太く濃くなっていった。いよいよご臨終かと思われた。
「車を停める。停まったら、すぐ外に出て、車から離れろ」
 そう言うと、彼はビルとビルの合間の狭い路地に逃げ込み、スーパーカーを乗り捨てた。文字通り乗り捨てた。座席に手榴弾を残し、一目散に外へと飛び出したのだ。俺は慌てて彼のあとに続いた。爆発。スーパーカーは派手な最後を迎えた。
 パトカーの群れが路地の中に進入してきた。その1台目のフロントガラスに、彼はマシンガンの洗礼を授けた。そうして警察官を車内で絶命させると、運転手の死体を引きずり下ろし、パトカーを奪った。俺も助手席側の死体を排除し、座席に収まった。アクセルをベタ踏みし、猛スピードで路地を抜け出した。路地を出る際、ひょっこり出て来た通行人をはねとばした。
 パトカーに乗り換えたからと言って、逃走劇に幕を下せたわけではない。同僚が乗っているわけではないとしっかり認識しているらしく、後続のパトカーは気が違ったように激しい接触を繰り返してきた。
 彼はサイレンを鳴らし、前方の車両に道をあけさせ、ハリウッド大通りをビバリーヒルズ方面へと急ぐ。彼は運転しながらも、忍者がマキビシを撒くように惜しみなくボトボトと手榴弾を落とした。後方でパトカーが次々に爆発した。そのおかげで、警察の集団と少し距離がひらいた。
 一軒の高層マンションの前で急停車。彼はマンションの自室に逃げ込み、俺も中に入れてもらった。警察は俺たちの姿を見失った。

ストリップクラブ

 目的地に設定されていたのはストリップクラブだった。なるほど、最高だ。店の裏、手狭な駐車スペースにスーパーカーをはめ込む。ロサンゼルスでは前向き駐車がスタンダードであり、バック駐車はあまりしない。郷に入りては郷に従え。慣例通り俺も頭から突っ込んだ。わざとだが、ブレーキとアクセルを間違えて壁に激突した。エンジンルームから白煙が上がり始めた。
 スーパーカーのオーナーが助手席から降りた。彼は先行してストリップクラブのドアを押し開ける。俺も続く。腹にずしんと来る大音量のダンスミュージック。ブラックライトが照り返す中、ディスコチックなビームがフロアを照射している。ストリッパーがポールダンスをしている真っ最中で、客はステージ縁の手すりにかぶりついている。サルのマスクも手すりにもたれかかり、豪勢におひねりをばらまき始めた。札束が雨のように降り注いだ。その羽振りの良さに周囲の連中は感嘆していた。俺もマネをしてみたが、とてもじゃないがもったいない気がして、1ドル札を1枚投げ込むので精一杯だった。
 俺は手すりを離れ、景気づけにバーカウンターへ向かった。女バーテンはモデルのような美人で、カジュアルな露出度の高いヘソ出しルックに身を包み、大音量で流れるエイメリー「1シング」に合わせて横揺れしている。ショットグラスを注文し、一息にかっこんだ。アルコールが口腔、喉、胃を焼いてく過程が如実にわかった。ガソリンが入った感覚、急速チャージ完了。ていうかこのバーテンも脱いでくれねえかな。
 ショーが一段落すると、ストリッパーは足元に散らばった札束を掻き集め、ステージ奥のカーテンの中に引っ込んだ。
 フロアをうろつき回っていた別のストリッパーが、サルマスクをプライベートダンスに誘った。彼はブルネットのストリッパーに伴われてカーテンの奥に消えていった。サルのマスクをかぶったまま。
 俺も彼に倣おうと、フロア内を物色した。赤いランジェリーで申し訳程度に肌を覆った、金髪の女がいた。目と目が合った。彼女は40ドルでプライベートダンスを披露すると言う。俺は一も二もなく財布から札束を掴み出した。
 カーテンの奥に導かれ、ソファーが置かれただけの1坪ほどの個室に案内された。俺はどっしりと座り、両腕を背もたれに載せ、足を開いてソファーに沈み込んだ。するとお嬢はブラを取ってオッパイをあらわにした。白い柔肌に美しいピンク色の乳首が光っている。ビューティフル。お嬢はくねくねと踊り始めた。俺は矢も楯もたまらずお嬢の腰に手をやった。
 プライベートエリア内は男の従業員が巡回しており、時折こちらの様子を偵察してくる。お嬢の腰をホールドしているところを見られ、軽くたしなめられた。どうやらおさわり禁止らしい。仕方なく、俺はただただカタカナ英語で「ビューティフル」を繰り返した。
 それでも、こんないい女が目と鼻の先で艶めかしく顫動していれば、視覚だけでは物足りなくなる。俺の指先は自然とお嬢の体に伸びた。お嬢はうれしそうに笑い、色っぽい眼で「もっと」と訴えた。
 従業員の気配を察知した時だけ、お嬢の肉体から手を離した。従業員が通り過ぎるとすぐにまた、お嬢のしっとりとした肌を撫で回した。痛いくらいに勃起していた。
「オイ!次やったらつまみ出すからな!」
 心臓が止まるかと思った。あまりに夢中になっていたため、そっと近づく従業員の気配に気が付かなかった。2回目は強い口調で警告された。思わず日本語で「すみません」と謝った。
 俺は借りて来た犬のようにおとなしくなった。舌を出してせわしなくハッハと息をするだけだった。お嬢は踊りながら少しさみしそうな表情をした。口をすぼめ、眉をひそめている。唇がパクパク開閉した。「もっと」と言っているようだった。
 俺は我慢できず、三度お嬢の体に触手を伸ばした。お嬢は笑顔を弾けさせ、激しく体を揺すった。舌先が届きそうな距離でオッパイがプルプルとおいしそうに揺れた。暴発してしまいそうだった。この娘が好きになってしまった。俺はとろんとした目つきで「アイラヴユー」を繰り返した。
「てめえ、何度言ったらわかるんだ!おしまいだ!とっとと出て行け!」
 従業員の怒声にもしばらく気付かないほど、この空間にのめり込んでいた。俺は屈強な黒人2人に両脇を抱えられ、店の外に放り出された。OMG。出入り禁止を食らってしまった。ドアの両脇を固める黒服を射殺し、再度入店してやろうと思ったが、サルマスクがお楽しみ中だという事に思い到り、グッと我慢した。腕組をしてこちらを警戒する黒服を、睨み返してやることしか出来なかった。
 やがて、俺が締め出されたことに気付いたのか、サルマスクも店の外に出て来た。どう説明して良いのやら、俺はジェスチャーだけで今の感情を伝えた。右手で顔を覆ってから天を仰ぎ、黒服に中指を立てた。
 すると、サルのマスクをかぶったこのクソッタレは、重そうなミニガンを小脇に抱えた。「ミニガン」と言うと小さな銃に聞こえるが、実際にはヘリコプターに搭載するようなごっついガトリングガンであり、シュワルツェネッガーが映画で掃射しているようなバルカン砲である。
 まさかとは思ったがそれは本物のミニガンで、彼が引き金を引くと、電動モーターが駆動し、毎秒100発とも言われる発射速度で弾丸を吐き始めた。ミニガンを右から左へ薙ぎ払うように振ると、黒服は痛みを感じる暇もなく絶命し、ドアは煙を上げた。彼は一旦射撃をやめ、重たそうにミニガンを携行したまま、店の中に押し入って行った。嫌な予感しかしない。店内で乱射するつもりなのかも知れない。ハラハラしながら俺は後ろに付き従った。
 彼はノロノロとダンスフロアまで歩を進めると、案の定、ミニガンに火を吹かせた。目にも止まらぬ弾丸が隙間なく連なり、その軌跡はまるでレーザービームだった。銃器というより刀剣類のようであり、数珠つながりの弾丸によって現出した刃が店内の全方向に振り回された。ライトが割れ、天井からパラパラとホコリが降り、壁がボロボロに剥がれた。もちろん、従業員は皆殺しにされたし、何の罪もない客たちも肉塊を飛び散らかせた。きゃあきゃあ逃げ惑うストリッパーたちも巻き込まれた。俺のためなのかも知れないが何もそこまでしなくても。生物が死に絶えたフロアには、それでもソウルミュージックが流れている。
 凄惨な事件現場にドヤドヤと警察官が踏み込んで来た。
「動くな!」
 そう叫んだ警官は、叫ぶと同時に後方へ吹っ飛んで動かなくなった。ミニガンからの弾丸の照射を浴び、生命活動が事切れたのだ。みるみるうちに死体の山が築き上げられた。
 突入してくる警官の勢いが、奔流から滴へと減ずると、彼はミニガンを駆動させたまま、落ち着き払った歩調で出口に向かう。マスクの下の表情を窺い知ることは出来ないが、不機嫌そうに葉巻をくわえたサルの顔は、ほとんど無感情に見えた。
 ドアまで辿り着き、外を覗くと、店を取り囲むようにパトカーが何台も停まっていた。パトカーの陰には警察官が何名も待機していて、代わる代わるドア付近にショットガンをぶっ放した。彼は被弾するのに構わず店外に進み出て、ミニガンでパトカーを次々に爆発させた。
 辺りは束の間静かになった。
 彼は何事もなかったかのようにスーパーカーに乗った。この男、あまりに危険。あまりに暴力的。俺も虐殺されるのではと思い、躊躇していると、『ワルキューレの騎行』が鳴り響いた。クラクションによるファンファーレ。乗せてもらうしかない。

スーパーカーを運転する

 俺はスクーターで街を散策した。BMXよりはスピードも出るし、余計な体力を使わなくて楽だ。より一層、ロサンゼルスの風景を楽しめむことができた。エリアによって街路樹が異なることに気が付いたり、気持ちの良い陽の光や風を感じることができた。スポーツカーを爆走させていたら気づくことはなかっただろう。目を細め、ゆったりとした時間を身体中で堪能した。
 エコーパークからシルバーレイク方面へと抜け、ダウンタウンに差し掛かった。
 と突然、スーパーカーに乗ったクソッタレに後ろから突っ込まれ、路上に投げ出された。ぶっ倒れている所にサブマシンガンの掃射を浴び、俺は死んだ。スーパーカーはそのまま猛スピードで去って行った。
 やれやれ。クソッタレは速い車に乗りたがる。そして無闇に他人を殺したがる。ひどい仕打ちを受けたが、しかし俺の気持ちは全く曇ることもなかった。俺の気分は頭上の青空のように晴れ渡っていた。るろうに剣心の「不殺」を貫こうと思えるほど、俺はリラックスしていた。もしくは、少し前に会ったBMX乗りのような泰然自若たる心地。
 陽が落ち、辺りは暗くなり始めた。ロサンゼルスの夜は治安が悪いと言われている。ただしそれは観光客にとって、だ。クソッタレにとっては昼間より安全と言える。なぜなら視認性が低下するためお互いの姿を捉えづらくなり、ドンパチの回数が減るからだ。
 俺は夜のロサンゼルスを鈍足スクーターで優雅に見て回った。
 それでも、クソッタレは湧く。いついかなる時でも、どこででも、ゴキブリのように出て来る。また別のスーパーカーが急接近してきた。スピードを落とし、俺のスクーターに追従した。スーパーカーにとっては徐行の速度であろう。俺はスーパーカーを無視し、笑ってしまうほどのろい速度で走り続けた。殺すなら殺せよ。何度殺されても、俺は気にしない。精神的優位に立っているのはこの俺だ。
 すると、スーパーカーはクラクションを鳴らした。その音は純正品ではなく、ワーグナーの『ワルキューレの騎行 』のブラス部分が大音量で鳴り響いた。『地獄の黙示録』でヘリが突撃するシーンが頭に浮かんだ。なんという悪趣味。俺は不覚にも笑ってしまい、スクーターを停車させた。それに合わせてスーパーカーも停車した。俺の出方を待っているようだった。たぶん、隣に乗ってほしいのだろう。
 俺はスクーターを降り、スーパーカーの助手席に回った。ドアを開けようとすると、ロックされていて開かない。どんなイタズラだ。乗せる気なのか乗せない気なのか、どっちなんだ。
 何度かドアをガチャガチャ言わせていると、先方もそんなつもりはなかったのだろう、ドアロックを解除してくれた。のみならず、彼は運転席から降りて助手席へ回った。
 俺はこの時、初めて彼の顔を見た。顔というか、サルのマスクをかぶった頭部を。そのサルはアニメキャラクター風の外見だが、目つきが据わっており、葉巻をくわえている。この男、どう考えても普通の人間ではない。
 彼は「あんたの好きなように運転しろ」と言った。必然的に俺が運転席に座ることになる。少し戸惑ったが、俺はこの好意に甘えることにした。遠慮せず荒い運転をした。
 初めてスーパーカーを運転した感想。リニアモーターカーもこんな乗り心地なのだろうか。ほんの少しアクセルを踏み込むだけで物すごい推進力で加速した。タイヤのついた乗り物が地上を走行しているとは思えない。浮かび上がる未来の車が地上数センチの高さを滑っていくようだった。
 カクテルライトが照らすオレンジ色の道路。対向車線を無数に漂う、2つ1組のヘッドライト。そんな見通しの悪い道を逆走していれば、畢竟、事故を起こすのは時間の問題だった。縫うように走ったが、俺は対向車と正面衝突を何度もした。スーパーカーのヘッドライトはすぐにつぶれ、前方はますます暗くなった。
 助手席のクソッタレは俺の粗暴な運転に気を悪くするわけでもなく、黙ってカーナビの目的地を設定した。マップに紫色のルートが表示された。どこかに向かえというのだろう。俺は紫色で示されたルートを、安全運転など全く心がけず、必要もないのにレーシングカー並の速度でなぞっていった。あちこちに車をぶつけた。曲がり角に差し掛かるたびに、ハンドル操作が間に合わず建物に激突した。車体をボコボコにへこませ、目的地めざして一心不乱に爆走した。

エコーパーク

 ハンドル中央を押すたびに、ラッパの音が『星条旗』を派手に鳴らす。竹槍マフラーは軽い爆発音をさせながら閃光を発する。俺は嬉しくなって蛇行運転を繰り返した。過剰なまでのオーバーステアであり、サイドブレーキを引かなくても勝手に後輪が滑った。峠を攻める『頭文字D』のハチロクを気取ってドリフトしまくった。タイヤから赤い煙がモクモクと立ち籠め、道路が出血しているようだった。
 何度も一般車と衝突した。
 ハチロクはマフラーから火を噴きながら坂道を上り、ロサンゼルスでは比較的おとなしい地区に入った。
 この辺りには武器屋や自動車修理工場はないし、高台に位置していて交通には不便である。クソッタレどもの生活導線からは外れている。そのため、あまり騒がしい感じはしない。南米系の住民が多く、アート系の学生街のような雰囲気。住宅のほかに、店舗としてはブティック、雑貨屋、バー、ダイナーが多い。多くの場所で、塀や家の壁に美しい壁画を見ることが出来る。
 俺は偶然、美しい公園「エコーパーク」に到着した。周辺地域名の由来とも成っている公園であり、ここは、ユニークなビデオ制作で知られるロックバンド「OK GO」のミュージックビデオ『End Love』が撮影された場所でもある。このビデオの最大の特徴は、めまぐるしく再生速度が変わること。時に早送り、時にスローモーションになる。4倍速・8倍速・16倍速・64倍速は言うに及ばず、16分の1のスローモーションから17万倍速のタイムラプスまで、あらゆる再生スピードが、1本のビデオの中にぶち込まれている。
 ビデオで観た景色が目の前に出現し、俺は興奮した。
 公園の中央は池である。池を取り囲むように芝生が生えており、貸しボートの事務所が建っている。池にはボートが何艘か浮かび、水鳥が泳いでいる。芝生ではピクニックに来ている家族連れがレジャーシートを敷いてのんびりとした時間を過ごしている。そのそばで人によく慣れた野鳥が羽を休めている(『End Love』の後半では、野生のカモがまるでペットのようにバンドにまとわりつく。このカモは「マリア」と名付けられるが、のちにオスであることが判明して「マリオ」に改名された)。
 浮かれていた俺はハチロクに乗ったまま池に突っ込んだ。浅いと思ったのだ。軽率だった。ハチロクはエンジンを唸らせるが、深みにはまり、タイヤを空転させた。必死に脱出しようとしたがエンジン音は弱弱しくなり、やがて止まった。カーラジオも沈黙した。エンジンルームが水没したのだ。
 俺は仕方なくハチロクを乗り捨て、ザブザブ池の中を歩いて水から上がった。改造したばかりなのにさっそくダメにした。保険会社に連絡すると、「お客様ご自身の過失なので」ということで、修理費を取られることになった。
 ハチロクを修理に回している間の代用品として、俺は公園の駐車場に停まっていたスクーターを盗んだ。アクセルグリップを思いっ切り回しても、メーンという情けないエンジン音しかせず、BMXに毛の生えた程度のスピードしか出ない。それでも俺はこのスクーターが気に入り、低速運転で例の自動車修理工場に運び込み、ナンバープレートを付け替え、自分の愛機として登録した。

車を改造する

 ガレージでハチロクに乗り換え、すぐ近くの自動車修理工場にお邪魔した。ある程度の資金も貯まったし、愛車を個性的に改造し、町行く人が振り向くようなカッコイイ車、より自分好みのマシンに進化させようと企てたのだ。
 改造パーツのカタログを見せてもらった。車の走行性能を高めるパーツ(エンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンション、ターボ)から、主に車の外観を変えるパーツ(バンパー、ヘッドライト、グリル、ボンネット、ロールケージ、ルーフ、サイドスカート、リアスポイラー、マフラー、ナンバープレート、ボディーペイント、タイヤ、ホイール、ウィンドウカラー)まで、さまざまなカスタマイズパーツが取り揃えられていた。一般に、値段の高い物ほど高性能だった。
 その中に、「Shakotan Exhaust」という名前のマフラーがあった。これはいわゆる「竹槍マフラー」であり、シャコタンは世界共通語になっているのかと驚いた。整備士に訊くところによると、「Bousouzoku」という言葉も、「ジャパニーズストリートレーサー」を表す語として有名だそうだ。
 竹槍マフラーなんて、日本では田舎の珍走団しか装備しない。はっきり言って悪趣味でダサい。しかし、ここロサンゼルスでは、逆にクールなのではないか。とにかく目立つことは間違いない。俺は目立ちたかった。他の車とは際立った個性を獲得し、他のクソッタレどもから一目置かれたかった。
 俺はジャパニーズストリートレーサースタイルの、悪趣味全開な車にハチロクを変身させようと決意した。日本では乗るのが恥ずかしくなるような、コテコテの暴走族スタイルに。
 まず、竹槍マフラーを装着してもらった。ハチロクのリア底部から、2気筒のマフラーが空に目がけて勢い良く突き出した。ターボを搭載したので時々火が噴くようになった。
 サスペンションをいじってもらい、全体の車高を下げた。
 そして、バンパーをいわゆるシャコタン(車高短)、地面すれすれの低さに出っ張らせてもらった。フロントもリアも。おまけに、往年の走り屋アクセサリーである吊り革をリアバンパーにぶら下げた。
 サイドスカートも前後のバンパーに合わせて地面すれすれに垂らしてもらった。
 リアスポイラーは可能な限り大きな、F1レーシングカーのように仰々しいGTウイングを取り付けた。
 バンパー、サイドスカート、リアスポイラー。これらは本来、空気抵抗を低減させ、高速走行を安定させるためのパーツだが、俺が施した改造は単なるファッションだった。想像していた以上にビジュアルがBousouzokuになっただけで、空気力学的な効果があるとはとても思えなかった。
 ホイールは高級車用の物に交換。タイヤは特注品に履き替えた。このタイヤはパンクしない防弾仕様であり、なおかつトレッド面(接地部分)に赤色の粉を混ぜ、摩擦時に真っ赤なスモークが出るようにした特別仕様だ。
 この時点で俺はかなり満足した。愛車がいかつい表情になり、ロサンゼルス中どこを探しても見つけられないであろう個性を獲得できた。しかしカタログをペラペラめくっていると、ボディーペイントをクロームメッキ仕様に変更できることを発見した。これは車体全体をステンレスにしてしまうような魔改造であり、周辺景色を鏡のように映すギラギラとした銀色である。対向車はまぶしくて迷惑だろうなあ。悪趣味な車にするならば、とことんまで追求しなければ。俺はクロームメッキに強く惹かれた。が、整備士によれば、大金を積めば変更してもらえるという単純な話ではなく、それ相応の実力を伴ったドライバーしか変更してもらえないということだった。「それ相応の実力」とは、具体的にはストリートレースで通算50勝することだった。ストリートレースで50勝! かなりハードルの高い条件だが、達成のあかつきにはクロームメッキ仕様イコールストリートレースの覇者として、他のクソッタレが羨望のまなざしを向けるのは間違いない。同様に、もしスタントジャンプを数多くこなせば、ホイールの色をライムグリーンに塗装してくれるという。目のチカチカするような蛍光色であり、これも目立つこと間違いなしだ。
 ボディーペイントとホイールカラーは、いつの日にかギンギラギンにすることを夢見、現状を維持した。また、エンジン、ブレーキ、トランスミッションなど、走行性能に関する改造については、予算不足により見送った。
 最後に、クラクションを標準装備の警笛から、アメリカ国家が流れるミュージカルホーンに取り換え、俺は修理工場から退出した。